

── 旅に出たくなった。なぜか。理由などない。風に誘われ花に誘われ、一壺を携えて飄然と歩いてみたくなったのだ。そんなことが許されないのは分かっている。仕事の約束が幾つかあるし、方々に借銭もある。家にはいろんな道具やなんかがおいてあるし、通信販売で磁気腹巻と紅芋チップスを注文してしまった。冷蔵庫には食べかけのチキンが入っている。それらをそのままにして飄然、旅に出るのは許されない。社会人として。しかし旅に出たい。(はじめにより)
「旅に出たい、けれども仕事をしなければならない」という矛盾に衝突した町田康さんが、家から半日で帰れる範囲、つまりは東京のいろんな街で旅をする、というエッセイのような紀行文のような本。
町田康さんの文章は音楽のようで、ユーモラスで大好きです。日常に「旅」の要素を求めている方、そしてとにかくユニークな文章を読みたいという方におすすめの一冊。