「言葉に代わる、言葉を超える感覚でしか共感ができない世界に足を踏み入れ、かつ目の前にはまだ言葉を知らない者がいる、そんな一年間だった」──。
編集者である角田貴広さんの、育児中の1年間の「言葉」にまつわる記録。これは、ふだん「言葉」を扱っている角田さんだからこそ見える世界線だと思った。言葉という表現手段を持たない子どもと時間を過ごすことで、もともとも素晴らしい彼の言葉に、より真実味と切実さ、純度が増したように思う。
『ほとんど読めない』というタイトルどおり、本は逆向きに綴じられていて、自らカッターなどでページを切らないと文章を読むことができない。読むという行為が、言葉という無形のものが、くっきりと輪郭を帯びていくような、そんな幸せな読書体験を味わえる。
言葉について思考や視点を増やしたい方に、ぜひおすすめしたい一冊。